音楽療法の活動を通じて、印象に残った言葉をご紹介します。
1.「音楽療法士って、宇宙にお祈りしているようなイメージがあるのですが…」
初めてお会いした薬剤師さんに言われました。確かに、そのようなイメージをもっている方も多いかもしれませんが、音楽療法はエビデンスに基づく臨床診療です。
ただ単に音楽が「効く」というのではなく、なぜ音楽が効くのか、どのように音楽を使えばいいのかを研究し、そのデータに基づいて行います。
私の専門とするホスピス緩和ケア音楽療法に関して言えば、音楽療法によるモルヒネの投与量の減少、ストレスや不安の軽減、吐き気の緩和、QOL(Quality of Life)の向上などが研究結果からわかっています(→音楽療法とは?)
2.「何が音楽療法で、何が音楽療法じゃないのかはっきりしないからわからない」
都内の数ヶ所で「音楽療法セミナー」を開催した際、多くの参加者から言われたことです。セミナーでみなさんが一番知りたかったことは、「音楽療法ってそもそも何なの?」ということでした。
先日「音楽療法について知らなかった10のこと」でもお話したとおり、今日の音楽療法がはじまったのは第二次世界大戦後の欧米で、現在でも音楽療法は日本よりアメリカの方が普及しています。
日本で音楽療法があまり普及していない背景には、複雑な理由があると思うのですが、その理由のひとつとして音楽療法の定義が難しいという課題があるのでしょう。
音楽療法に興味のある方はたくさんいて、みなさん情報を求めているのだと実感しました。
3.「何で音楽療法士がもっと病院にいないの?」
都内のデイサービスで音楽療法をした際、失語症の女性に聞かれました。
彼女は50代で脳梗塞になり、言葉が話せなくなったのです。それでもリハビリによって少し言葉が話せるようになった彼女は、音楽療法に参加した後、一生懸命私に何かを伝えようとしたのです。
よく耳を傾けると、彼女が言いたかったことはこういうことでした。
「私が入院したときに音楽療法士がいれば、入院生活の心の支えになっただろうし、リハビリにも効果的だったはず。なんでもっと音楽療法士が病院にいないの?」
本当にそのとおりです。アメリカでは、たくさんの音楽療法士が病院やリハビリ施設で働いています。
日本にもトレーニングを受けた音楽療法士がたくさんいます。その人たちが働ける環境ができてほしいと、切実に思います。
4.「父が亡くなる前、音楽を弾いてあげればよかった」
拙著『ラスト・ソング 人生の最期に聴く音楽』(ポプラ社)を読んでくださった方からのコメントです。
この本には思い出深い患者さんとの10のエピソードを紡ぎましたが、その最初のストーリーは「聴覚は最期まで残る感覚」というテーマです。
信じがたいかもしれませんが、死が迫った患者さんでも聴覚だけは残っています。
大切な人に最期まで話しかけてあげればよかった、音楽を聴かせてあげればよかった、というような感想が届くことが多いです。
5.「音楽療法士を目指している人たちへ、何かメッセージありますか?」
先日ラジオに出演させていただいた際に、質問されました。
音楽療法士になるにはたくさんのことを勉強しなければいけません。音楽の他にも、心理学やセラピーの過程を知らなければいけません。
でも一番大切なことは、自分自身の内面を磨くことだと思います。
なぜなら、音楽療法で一番大切なのはクライアント(対象者)との信頼関係です。どんなに優れた音楽療法士であっても、クライアントに信頼される人間でなければ、セラピーはできません。
6.「どんな人の中にも音楽があるのですね」
『ラスト・ソング』に寄せられた感想です。
「どんな人にも音楽がある」 まさにそのとおりだと思います。
“There is a musical child inside every person.”
私の恩師がよく言っていた言葉です。ひとりひとりの中に、音楽好きな子どもがいるのです。
音楽の素質は誰にでもあります(→音楽の素質とはどんなもの)。あなたにもあります。もしかすると、それに気づいていないだけかもしれません。
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雪見大福 says
私は今、理学療法学を勉強している学生です。私達のようなリハビリの勉強をしている生徒は大半がスポーツに興味がある人で音楽にあまり関心のない人ばかりです。しかし、私自身は幼少期に病を患ってから回復し医療職を目指したためスポーツ経験はなく、運動神経は皆無で、音楽が大好きでした。そして音楽療法という存在を知ったとき、私にも出来ることがあるのでは、と思い、今情報を探している段階です。
佐藤さんのこのサイトは音楽療法についての知識が殆ど皆無であった私にとって、学ぶものが多く、参考になりました。ありがとうございます!
卒業論文、修士論文で音楽療法とリハビリについて研究したい、という思いが強いのですが、まだテーマが見えてません。
もし何かアドバイス等ありましたら、お願いいたします。
Yumi says
メッセージありがとうございます。音楽療法はリハビリの分野でも効果的ため、アメリカでは音楽療法士を雇う病院が増えてきています。リハビリを専門とする音楽療法士は理学療法士と一緒に働くことが多いです。私の専門分野ではないので、特にアドバイスはできませんが、卒論がんばってください。
星 博 says
音楽療法が定着しない原因はやはり日本の健康保険制度でそれが保険適用にならない
ことです。つまり全額患者さんの自己負担になるので報酬のうえでは残念ながら、富裕層しか依頼できなくなります。臨床心理士も国家資格でないために保険適用はありませんので似てますね。
全額自己負担となるためになかなか普及しないのです。
結局ほとんどが無償ボランティアの活動しか存在しないのでしょう。 他の要因としては死の床にある患者に赤の他人が入ってほしくないと病院も患者家族も考えるのでは。特に病院は閉鎖的・保守的な世界ですので。たとえば牧師とか僧侶が話にきてもなかなか受け入れられないでしょう。
キリスト教精神が根付いている米国と日本の精神的な風土の差が大きすぎるのです。
佐藤さんのような音楽療法士の活動が少しずつ認知されることを期待するしかないですね。佐藤さんはやはりフロンティアになるミッションがありますね。
今年の11月頃に私どもの湘南医療を考える会を辻堂で行いますので、その時に我が国のターミナルケアにおける課題を話し合います。佐藤さんもぜひご出席ください。
他のメンバーにはNHKFMの件を伝えてあります。
Yumi says
星さん、いつもコメントありがとうございます。日本で音楽療法が普及していないのには、多くの理由があると思います。大変残念なことです。頑張って活動している音楽療法士さんもたくさんいらっしゃいますし、ニーズも高まっていますので、今後いい方向に向かっていくことを願います。オーディオドラマのご感想お待ちしております。
Noriko says
特に、リハビリの現場に音楽療法士がもっといたら、多くの方がより効果的に回復できると思います。
Yumi says
のりさん、コメントありがとうございます。日本の音楽療法の現状は厳しいですが、ニーズは増えてきていると思います。