音楽療法のセッション中に、患者とセラピストの脳がシンクロすることが新しい研究によって確認されました。これは、患者とセラピストの関係性を改善する可能性がある画期的な研究結果です。
この研究は、今月ジャーナル「Frontiers in Psychology」に発表されたものです。
音楽療法とは、クライエント(対象者)の身体的、感情的、認知的、精神的、社会的なニーズに対応するために、セラピストとクライエントの治療関係の中で、音楽を意図的に使用する療法です。
国内で音楽療法について語られる際、セラピーにおいて最も大切な「セラピストとクライエントの治療関係」に言及されないことが多いです。今回の研究は、この治療関係(セラピューティック・リレーションシップ)に焦点を当てた点が興味深いですね。
内容を詳しく見ていきましょう。
研究は、Anglia Ruskin Universityというイギリスの大学の Jorg Fachner教授とClemens Maidhof教授によって行われました。今回、音楽療法の研究では初めて「ハイパースキャン」と呼ばれる手順が使用されました。これは、2つの脳の活動を同時に記録するための方法です。
セッション中、セラピストとクライエントがそれぞれEEGキャップ(脳波測定キャップ)をかぶり、脳波が記憶され、セッションは映像にも記録されました。
セラピストは、クライエントと意味のあるつながりが起こる「Moment of change(変化が起こる瞬間)」に向けてセッションを行います。すると、クライエントの脳波がネガティブな感情からポジティブな感情に変化する瞬間が見られます。セラピストはクライエントの変化に気づくと、セラピストの脳波にも同じような変化が見られたのです。
研究者はネガティブな感情とポジティブな感情をプロセスする脳の左右の前頭葉を調べました。そして、ハイパースキャンのデータとビデオ映像を分析することで、セラピストとクライエントの間で脳のシンクロニゼイション(brain synchronization)が起こっていることを確認したのです。
同時に、セラピストとクライエント間の「Moment of change」が脳内でどのように起こっているかも示しました。
研究者のJorg Fachner教授は次のように述べています。
この研究は音楽療法における画期的な出来事です。音楽療法士はセッション中、(クライエントとの)感情的な変化やつながりを経験していると報告しています。脳のデータによって、これを確認することができたのです。
This study is a milestone in music therapy research. Music therapists report experiencing emotional changes and connections during therapy, and we’ve been able to confirm this using data from the brain.
この結果を見て、私は心理学者のユングの言葉を思い出しました。
ふたつの人格が出会うことは、ふたつの化学
物質が接触するようなもの。もし何か反応が起これば、両者とも変化する。 The meeting of two personalities is like the contact of two chemical substances: if there is any reaction, both are transformed.
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~ Carl Jung, “Memories, Dreams, Reflections” ⠀
セラピーをしていると、この「Moment of change」を肌で感じる時があります。そのChange(変化)は相手だけに起こっていることではなく、自分にも起こっていることだとはっきりと感じます。
音楽療法士でなくても、医療、介護、福祉、教育、などの分野で活動している方であれば、そのような瞬間を経験したことがあるかもしれません。今回の研究によって、ユングの唱えていたことが脳波によって示されたというのは、とても興味深いと思います。
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