モーツァルトを聴くと、「頭が良くなる」いう話を聞いたことがありますか?
日本では「モーツァルト療法」と呼ばれるもので、関連する本やCDがたくさん出ています。音楽療法士をしていると、この件についてよく質問を受けます。モーツァルトには本当に特別な効果があるのでしょうか?
20年ほど前アメリカで、モーツァルトを聴くと「IQが上がる」「頭が良くなる」と話題になりました。大学生を対象にしたテストで、モーツァルトを聴くと空間認知のスコアが上がるという研究結果が出たのです。そのため、子どもにはモーツァルトを聴かせるべきだという説が大流行し、「モーツァルト効果(The Mozart Effect )」と呼ばれるようになりました。
しかしその後、他の研究者が再現しようとしたところ同じ結果は出ませんでした。そして、この「噂」に終止符を打ったのは、モーツァルトの故郷であるオーストリアのウィーン大学が出した研究結果です。2010年に発表された論文で、モーツァルトの音楽に特別な効果はないことがわかりました。
オーストリアのウィーンの研究者は、単にモーツァルトの音楽を聞くだけで、特定の認知機能強化があるという、いわゆる「モーツァルト効果」にはエビデンスがない、という明確な結果を示した。~ScienceDaily
というわけで、モーツァルト効果は単なる「言い伝え」となったのです。ではなぜ、日本では今でもこのテーマが話題になるのでしょうか? 簡単に言えば、本やCDの宣伝効果があるからでしょう。
さて、モーツァルトに特別な効果はなくても、音楽が人間の成長や心身の健康の回復を促すことは、さまざまな研究結果からわかっています。
そのひとつの例として、近年メキシコで行われた研究結果をご紹介します。音楽教育が子どもの脳の発達を促すかどうかを調べた研究です。対象は5歳~6歳の23人の子どもたち。音楽のレッスンを9ヶ月間受けたところ、脳スキャンに違いが判明しました。脳のさまざまな部分をつなぐ「神経線維」の連結が向上したのです。
MRI(脳の検査装置)を使って、3人の子どもの脳を映したのが下の図です。光っている部分が神経線維。レッスン前(Pre)とレッスン後(Post)で、大きさに変化が起こったことがわかります。
Credit: Radiological Society of North America
研究者のDr.Dies-Suarez は、「幼い頃に音楽のレッスンを受けることは、子どもの脳の発達に良い」と言います。
その他の研究結果からも、音楽が子どもの言語力や数学力の発達を促すことや、音楽を通じて他者と関わりをもつことによって、人間にとって大切なソーシャルスキルが身につくこともわかっています。
まとめると、音楽は人間の成長に役立つものですが、モーツァルトの音楽に限ったことではない、ということです。発達盛りの子どもの脳に良い影響を与えるために、子どもと一緒に唄ったり、楽器を奏でたりして、音楽を日常生活に取り入れてみてください。また、子どもが興味を持つのであれば、音楽教室に通わせることをおすすめします。音楽のギフトは、子どもにとってかけがえのないものとなるでしょう。
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【参考文献】
Rauscher, Shaw, & Ky (1993). Music and spatial task performance. Nature, 365, 611. http://www.nature.com/doifinder/10.1038/365611a0
University of Vienna (2010, May 10). Mozart’s music does not make you smarter, study finds. ScienceDaily. https://www.sciencedaily.com/releases/2010/05/100510075415.htm
Radiological Society of North America (2016, November 21). Musical training creates new brain connections in children. Musical training creates new brain connections in children
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