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音楽療法日記|グリーフサポートと終末期ケア|佐藤由美子

グリーフサポートと音楽療法|人生の最期に聴く音楽

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Home » 音楽療法について » 終末期ケアの音楽療法 » 音楽が最期の贈り物となるとき

音楽が最期の贈り物となるとき

音楽療法士になって1年目、アメリカのホスピスでテレサという80歳の患者さんに出会った。声をかけても反応はなく、不規則な呼吸をしていた。息子さんのリクエストで、私が “きよしこの夜” を唄うと、テレサの呼吸はゆっくりとなり、目がかすかに開いた。歌も終わりにさしかかり、最後のフレーズを唄いあげるのと同時に、テレサはゆっくり深く息を吸いこんだ。

「ああ、母さんはたった今死んだよ……」

テレサの手をにぎりながら脈をとっていた息子さんが言った。その死はあまりにも穏やかなものだったので、彼に言われなければ私は気づかなかっただろう。それは、私が生まれて初めて見た人間の死だった。同時に、人は最期まで聞こえているということを実感した出来事だった。

信じられないかもしれないが、死が迫り、反応を示さなくなった患者さんでも耳は聞こえている。聴覚は最期まで残る感覚なのだ。だからこそ、最期まで患者さんに話しかけたり、音楽を共有したりすることが大切だ。その手助けをするのが、ホスピス音楽療法士としての私の役割のひとつだ。

2015年の夏、私は横須賀の老人ホームに住む患者さんを数人訪問した。そのひとりが、認知症を患う早川さんという女性だった。彼女は2日前から声をかけても反応をしなくなったという。

早川さんの部屋に入ると、小柄で綺麗な白髪の女性がベッドに静かに横たわっていた。ギターをケースから取り出しているとき、早川さんの娘さんとお孫さんが面会に来た。ふたりとも音楽療法に同意し、娘の陽子さんが “千の風になって” をリクエストした。彼女も早川さんも好きな曲だという。

ギターの伴奏で、ゆっくりと早川さんの呼吸に合わせて唄った。すると、1番の歌詞が終わりに近づいたところで、ベッドの脇に立っていた看護師が早川さんの変化に気づいた。

「口を開けて何か言おうとしてるわ!」

孫の涼子さんがベッドにかけより、早川さんの手を握った。

「おばあちゃん……」

涼子さんはハンカチで涙をぬぐっていた。早川さんは半分目を開けて、口を微かに動かした。

「母は先週、90歳の誕生日を迎えたんです」

陽子さんが言った。ベッドの脇には、「おばあちゃん、お誕生日おめでとう!」と大きく書かれた紙が貼ってある。

「誕生日までは頑張ってほしいと思っていて、母もおそらくそう思っていたんでしょう。誕生日のあとに容態が悪くなったんです」

陽子さんは言葉に詰まりながらも、続けた。

「今まで本当によく頑張ってくれました。母には感謝しています」

早川さんは家族の愛情に包まれた人生を送ったのだろう。彼女はとても穏やかな表情をしていた。老人ホームを出た1時間後に、早川さんが息を引き取ったことを知った。

死を迎えようとしている人やそのご家族にとって、気持ちを共有し合うことは大切だ。そうすることで、お互いが穏やかな別れを経験することができるからだ。しかし、このようなときにかける言葉が見つからないこともあると思う。だからこそ、言葉ではなく音楽を共有するという方法があることを知っておいてほしい。

早川さんを含む24人の患者さんの事例をまとめた『死に逝く人は何を想うのか』が今年の冬刊行した。その後、読者から「もっと早く知っていたら、父に唄ってあげたのに」「妻と一緒に音楽を聴けばよかった……」というような感想が届く。

最愛の人の死に直面したとき、誰でも頭がいっぱいになるだろう。音楽など思いつかないのが普通だと思う。だからこそ知っておいて欲しい。音楽があなたから大切な人への最期の贈り物となりえることを。

この記事は、『死に逝く人は何を想うのか』(ポプラ社)の一部を修正して引用したものです。

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