新刊『死に逝く人は何を想うのか-遺される家族にできること』が、1月10日にポプラ社から発売になります。
「あの人が何を考えているかわからない」
「いつも愚痴ばかり言われる」
「何もできない、一緒にいるのがつらい」
1200人以上を見届けたホスピス音楽療法士が提案する
穏やかな「見送り」のあり方とは?
途方に暮れる家族に贈る希望の書。
1回しかない「最期のお別れ」を、かけがえのない時間にするために。
大切な人との死別はつらい。あまりのつらさに誰もが打ちひしがれるだろう。そもそも私たちは死に逝く人の気持ちがわからない。何かしたいのに、何をしたらいいかがわからない。どうすれば私たちは、本当の意味で末期の患者さんの心に寄り添い、サポートできるのだろう?
本書では、24人の実話を紹介しながら、穏やかな「見送り」に必要なことを説いていく。
【目次】
第一章 死に直面した人の心の変化
第二章 大切な人のために家族ができること
第三章 グリーフ――悲しいのは、当たり前のこと
【本書で紹介される24のケース】
ケース5 清水和子さん――「老人ホームに入れるなんて親不孝な娘だ!」
80歳の和子さんは、娘と息子を女手ひとつで育ててきた。子どもたちが自立してからは、札幌の自宅でひとり暮らしをしたが、ある日、自宅で急に倒れてしまう。診断は心不全。ひとりで住むのは難しくなり、青森にある娘の優子さんの家に移り住むことになった。しかし、家庭と仕事の両立で精一杯だった優子さんは介護という難しい決断を迫られ、母を老人ホームに入居させることにした。そして、和子さんはその娘の決断を責めるようになった……。
「ああ……優子って名前はね、私がつけたのよ」
「優しい子に育ってほしい、という願いを込めてその名前をつけたのですね」
和子さんは泣きながらうなずいた。
「ええ、ええ。そうなの。本当に昔から優しい子なの。だから私、つい甘えてしまって……。毎日電話で意地悪なことばかり言ってしまうから。家に帰りたいって……。電話したあとに悪いことをしたと思うんだけど、それでもまたかけちゃうの。他にやることもないから」
下を向いて涙をぽろぽろこぼす和子さんを見て、優子さんがつぶやいた。
「……悪いと思っていたなんて、知らなかった」
「和子さんは、家に帰りたくても帰れない苛立ちを優子さんにぶつけてしまっているようですね。でも、それは確かに、優子さんにとってはつらいことだと思います」
「そうよね。娘には本当に感謝している。でも、いつも悪口ばかり言ってしまう」
しばらく経って和子さんは顔をあげると、今日、初めて優子さんと目を合わせた。
「ごめんなさい」
和子さんの言葉に優子さんは静かにうなずくと、ハンカチで目を押さえた。……
【その他のケース】
トム――誰にもわかってもらえない気持ち
池田さん――あきらめたわけじゃない
ローラ――信じられないし、信じたくない
エリカ――なんでこんなことになったの?
清水さん――「老人ホームに入れるなんて親不孝な娘だ! 」
大嶋さん――「頑張って」「元気になってね」の言葉がつらい
ジェーン――明日、目が覚めなければいい
川井さん――心配なのは、いつまで生きるかわからないこと
北田さん――もしかしたら治るかもしれない
白鳥さん――まだ死にたくないけど、もう近いと思う
アレン――娘の成長を見届けたい
坂口さん――あなたのために唄うワルツ
チャールズ――母のロザリオを探して
月舘さん――「治ったら、また会えるから」
小原さん――姉との電話
荒井さん――戦火を生き延びて
岡本さん――伝えたいのは「ありがとう」だけ
千葉さん――「ごめんなさい」
井出さん――母ちゃんのおかげで幸せだった
伊藤さん――私がここにいる理由
ユージーン――「そろそろ部屋を片づけるとき」
平野さん――明日、家に帰らないといけない
前田さん――死んだ母さんが見える
早川さん――音楽が最期の贈り物
佐藤由美子(著)
定価:886円 (本体: 820円)
コメント