エンパシー(共感)がテーマ
ポッドキャストBLISS(ブリス)を通じて、医療・介護・福祉の分野で活躍している方々とお話ししていると、彼らのメッセージには共通点が多いことに気づきます。インタビューの中で何度も出てくるテーマのひとつが「共感」。相手の感情を理解し、共有する力です。
北海道のホスピスで活動する日本音楽療法学会認定音楽療法士の中山ヒサ子さんは、 「If I were you(イフ・アイ・ワー・ユー)。もし、私があなただったら」という気持ちを忘れないことがホスピスケアにおいて欠かせないことだと言います。
横須賀で在宅医療を行っている千場純医師は「医師が相手のことを考えずにただ一方的に指導するだけだったら、医療としては不成功になりますよね。相手の立場になって一回考えてみる。それをしないといけないんです」と言います。
また、認知症の人とのコミュニケーション方法「バリデーション」を行っている正垣幸一郎さんにもお話を伺いました。バリデーションのアプローチの基本は、認知症の人と共感することにあります。彼らを変えようとするのではなく、自分自身が変わることが求められます。正垣さんは最初「バリデーション」について知ったとき、今まで自分のやっていたことが「励まし」や「気晴らし」であり、本来の〈共感〉ではなかったと気づいたそうです。
エンパシーの難しさ
エンパシー(共感)とは口で言うのは簡単ですが、実際に行うのはとても難しいことです。その理由のひとつは、自分を相手の立場に置いて考えてみるためには、想像力(imagination)が必要だからです。そしてそれは、必ずしも楽しい過程ではありません。自分が末期の病気で死に直面していることや、認知症で誰にも理解してもらえない状態、貧困に苦しんでいることなどを想像したいと思う人はいるでしょうか?
まさにこれが、NPO法人もやい理事長の大西連さんが日々直面している課題です。大西さんはホームレス支援活動や生活困窮者の相談支援に携わる過程の中で、貧困の「自己責任論」に直面しています。貧困とはびっくりするくらいすぐそばにあるもので、誰もが貧しくなる可能性がある、と大西さんは語ります。ただそれは、多くの人にとって想像し難い、そして想像したくないことだと思います。
Putting Yourself in Someone Else’s Shoes
「相手の立場になって考える」を英語では、”Putting Yourself in Someone Else’s Shoes” と言います。直訳すると「相手の靴の中に自分を置く」という意味です。日本の表現と意味は同じですが、より具体的でイメージ(image)がわきやすいと思います。
このフレーズを説明するビデオを見つけました。言葉なしのビデオです。
エンパシーの最初のステップ
相手の状況や気持ちを想像することがいかに大切であるか、このビデオは教えてくれます。では、日常の中で私たちはどのようにそれを行えばいいのでしょうか?
日本音楽療法学会認定音楽療法士の智田邦徳さんと三井和子さんがそのヒントを与えてくれました。ふたりは東日本大震災以来、三陸の被災地に通い、音楽療法を通じた支援活動をしています。智田さんが被災地に通い始めた当初、三陸の人たちはなかなか心を開いてくれなかったそうです。でも、智田さんが三陸の文化について学び始めると、皆さんが話をしてくれるようになったそうです。
同様に、三井和子さんは吉里吉里地方の伝統音楽を学び、セッションに取り入れていく中で、人々との交流を深めていきました。震災を経験した人々の苦しみだけでなく、彼らに喜びや誇りをもたらすものを理解しようと努めることで、ふたりは被災地の人々と〈共感〉することができたのだと思います。
相手の立場になって考えるためには、努力が必要です。時間もかかります。でも、誰もがその能力を持っていると私は思います。
伊藤冴 says
こんにちは
2年ほど前にコメントにて質問させていただいた愛知県の音楽療法士です。
いつも佐藤先生の日記やツイッターでのツイートが励みになっており感謝しています。
今我が病院での音楽療法の課題が
音楽療法の効果の数値化
ベッドサイドの方には本当に効果があるのか
という二点が上がっています。
先生の方で何か著書や評価表など参考にしているものはありませんか?